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やさしい病気の話

今回は「メタボリック症候群」と題して大澤 佳之先生が話題を提供します。

ゴールデンウィーク早々に下記の記事がのテレビや新聞などで大きく報じられました。

「心筋梗塞(こうそく)や脳卒中など生活習慣病の引き金となる「メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)」の疑いが強いか、その予備群とみられる人が40歳を過ぎると急増し、40?74歳の男性の約半数に上ることが8日、厚生労働省の初めての全国調査で分かった。女性も同じ年代で5人に1人が当てはまり、該当者は全国で約1960万人と推計されている。同省は深刻な事態と受け止めている。」

メタボリックシンドロームとはどんな病気なのでしょうか。分かり易く解説してみたいと思います。まず用語ですが、関連する学会でも、うまい日本語訳が思いつかなかったのでしょう。横文字のメタボリックシンドロームが使われています。内蔵に脂肪が蓄積し、高血圧症、高脂血症、糖尿病などを合併する症候群です。脂肪細胞から生理活性物質が分泌されます。これをサイトカインと言います。内臓に蓄積した脂肪細胞から分泌されるサイトカインでは、良い働きを行うものは少なくなり、逆に多くの悪い働きを行うものが増加して、血圧を上昇させたり、血液中の中性脂肪を増やし(善玉コレステロールである)HDLコレステロールを減らし、血糖値を上昇させます。メタボリックシンドロームの際は、たとえ血圧上昇、脂質異常、血糖上昇の程度がそれぞれ軽度でも複合的に悪い方向に働きます。長い時間をかけて動脈硬化症が進行し、脳梗塞や心筋梗塞になる危険が増加します。

高血圧症や高コレステロール血症あるいは糖尿病があれば、動脈硬化症を合併する危険が高いことは従来から広く認識されてきました。そして、高血圧や高レステロール血症を適切な薬剤などで改善させると、心筋梗塞や脳梗塞の発症を抑えることができる事が解っていました。ところが、肥満の人で、血圧がちょっと高め、脂質も軽度異常、血糖値も糖尿病まで至らない軽度上昇の方達でも、やはり脳梗塞や心筋梗塞の発症率が高いようだという事を、臨床医は経験的に知っていました。そこで、基準を設けて、このような人々を見つけ出して、適切な治療を行うべく、メタボリックシンドロームの診断基準が作成されました。まずは内臓脂肪蓄積型の肥満の見つけ出しです。上半身肥満とかりんご型肥満とかで知られていました。一方、内臓脂肪より皮下脂肪が多いタイプは、下半身肥満とか洋ナシ型肥満と言われていました。そこで、内臓脂肪蓄積型の指標としてウエスト径をを用いる事にしました。人種などで体型が違うので、各国で基準値が違います。日本では、男性85センチ以上、女性で90センチ以上のウエスト径を異常としました。ただ、日本の女性のウエスト径の基準は他の国の基準に比べ少々甘いようですのですのでご注意下さい。このウエスト径の増加を内臓脂肪蓄積の指標と考え、これに血圧の高値、血中脂質の異常、血糖値の上昇の3項目のうちいずれか2項目の異常が加わるとメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の診断がつけられます。1項目の異常では、予備軍という事になります。

このメタボリックシンドロームの予防にも治療にも生活習慣の改善が重要です。すなわち、正しい食生活と運動習慣の確立です。炭水化物(でんぷんや砂糖など)の過剰摂取を避け、良質の蛋白質(大豆や魚や肉など)を十分に摂取し、悪い脂肪(獣脂などの飽和脂肪酸やマーガリンなどのトランス脂肪酸など)を避け、良い脂肪(魚油やシソ油やオリーブ油など)を摂取しましょう。もちろん緑黄色野菜や果物もたっぷり摂ってください。さらに、適度の運動習慣が最も重要です。運動により内臓脂肪は比較的速やかに燃焼することが知られています。1日に30分程度の歩行などの軽い運動でも十分に効果が見込めますよ。

(大澤 佳之 06.10.12.)