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やさしい病気の話

今回は「咳は厄介者?」と題して佐藤 幸美先生が話題を提供します。

一昨年より猛威をふるっている新型インフルエンザには、高熱、咳、のどの痛み、鼻水などの症状がみられますが、咳だけが10日も2週間も続いたという方もいると思います。咳が続くと体力を消耗しますし、おなかの筋肉も痛くなったりして大変つらいものです。

こんな一見すると厄介者の咳も、実は人間が生きていくためにはとても大切な働きを持っています。
私たちが鼻や口から吸った空気は「気管・気管支」という空気の通り道を通って肺に送られます。この「気管・気管支」に異物が入り込んだら大変です。息ができなくなったり、肺炎をおこしてしまいます。その異物を一気に外に出してやる働きをするのが咳というわけです。

何かぼんやり考えごとをしながら物を食べていて、ひどくむせて咳き込み、苦しい思いをした経験は誰もがあると思います。食べ物は口からのどを通り、食道を通って胃に入ります。また、空気はのどから気管を通り肺に入ります。(図参照)
気管と食道は薄い膜を隔てて前後に並んでいます。食べ物を飲み込む時は気管の入り口が閉じて、普段は閉じている食道の入り口が一瞬開いて食べ物は食道に落ちていきます。食べ物が間違って気管に入らないように、精密な神経の調節が働いているのです。ですから物を食べるときは、食べることに集中しないと誤って食べ物が気管に入って(誤嚥)、咳き込んだりすることがあります。

気管と食道の位置関係

高齢になるとこの神経の調節が衰えて誤嚥することが多くなります。その上、咳の反応もにぶくなります。そのため空気でなく異物が気管・気管支に入り込んで肺炎になりやすくなります。
物を食べる時だけでなく、夜寝ている時も口の中の唾液を細菌と一緒に誤嚥していることもあります。高齢者に肺炎が多いのは、ただ単に抵抗力が落ちただけでなく、このような理由があります。

このように咳をするということは、身体にとってとても大切な防御反応の一つだと言えます。ただ、咳が1ヵ月も2ヵ月も続いたら注意が必要です。肺がん、肺結核、気管支喘息、咳喘息、アトピー咳そう、副鼻腔気管支症候群、胃食道逆流症など隠れた病気があるかもしれません。咳が長引くときは必ず医療機関を受診しましょう。

(佐藤 幸美 11.8.22.)