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やさしい病気の話

今回は「心房細動(しんぼうさいどう)について~重い脳梗塞を引き起こす不整脈~」と題して佐々木一哉先生が話題を提供します。

突然、脈が乱れだす心房細動は、日ごろの診療において多くみられる不整脈のひとつです。加齢や高血圧、心肥大などに伴って症状があらわれることが多く、70歳以上の高齢者で5~10パーセントの割合で認められます。

不整脈自体は死に直結するものではありませんが、重い脳梗塞【のうこうそく】との合併症となることで、死亡率を大きく上昇させます。そのため、厳密な病状のチェックと早めの治療が必要となります。
心房細動がどのような不整脈かというと、心臓の左心房という部位に過度の負荷が加わることで、心房全体が痙攣【けいれん】するかのように小刻みに震え、不規則で頻繁な脈が生じるというものです。
自覚症状としては、動悸【どうき】 や息切れ、胸部の圧迫感などがありますが、症状が全くなく、健康診断等で偶然見つかるケースも多くあります。

心房細動が続くと、心房内の血流がよどむために血栓(血の塊)ができやすくなり、その血栓が比較的太い脳動脈に詰まることで、広い範囲で脳梗塞を引き起こします。
心房細動を放置した場合、5パーセントの方が脳梗塞になることが知られています。また、脳梗塞全体の約30パーセントが心房細動による心原性脳梗塞だと言われています。さらに、この心原性脳梗塞は、脳梗塞の中でも病状が非常に重く、死に至るケースも多いことから、早期に発見し治療することが大切です。

心原性脳梗塞を予防するために、心房細動では、第1の選択としてワーファリンという医薬品による抗凝固【こぎょうこ】療法(血を固まりにくくして血栓をつくらないようする療法)がとられます。
ワーファリンを服用する際には、「ビタミンKを多く含む納豆や青汁などを飲食してはならない」「有効な分量を決めるために多くの回数の血液検査が必要」― などの制約がありますが、最近はこのような制約が少なく安全性の高い新薬(ダビガトラン)も出ています。

現在、心房細動の治療法が向上し、元の正常な脈に戻すための薬物治療に加え、高周波カテーテルアブレーション治療(カテーテルと呼ばれる管を心臓の内部に送り、不整脈の原因となる異常な心筋を取り除く治療法)も普及しつつあります。また将来、心房細動にならないように、若い時期における高血圧や高コレステロール血症、糖尿病などの治療と生活習慣の改善が重要とされています。(これは、アップストリーム治療と呼ばれています)
動悸や脈の乱れがある場合は、早めに医療機関を受診し、精密検査を受けることをお勧めします。

(佐々木 一哉 13.05.13.)