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やさしい病気の話

今回は「〜抗菌薬治療には注意が必要です〜 耐性菌はどこにいる」と題して佐々木重喜先生が話題を提供します。

耐性菌による感染症といえば、何となく「抵抗力の落ちた入院患者さんがかかるもの」というイメージでしたが、最近はそうとばかりも言えなくなってきました。ヒトの腸内に常在している大腸菌、クレブシエラ属、プロテウス属のような、腸内細菌科に属する菌での薬剤耐性が進んでいるからです。

この耐性のメカニズムは、「基質特異性拡張型βラクタマーゼ」という酵素を作り出し、多くの抗菌薬を分解してしまうというものです。「基質特異性拡張型βラクタマーゼ」を英語で表記したときの頭文字をとって、「ESBL産生菌」と呼びます。そのまま「イーエスビーエル」と読んでください。ESBL産生菌は、一般の健康な人でも保菌している例があると言われています。

仙北組合総合病院(現・大曲厚生医療センター)で過去5年間に検出された大腸菌の内訳

グラフは、仙北組合総合病院で過去五年間に検出された大腸菌の内訳を示したものです。ESBL産生菌の割合が徐々に増えていることが見て取れます。

ESBL産生菌を保菌する危険因子としては、長期入院、長期にわたる人工呼吸器管理、尿道カテーテルや中心静脈カテーテルの長期留置、抗菌薬の使用、といったものが知られています。こうして並べてみると、「抵抗力の落ちた入院患者さん」というイメージそのまま、と言われそうな気もしますが、実は最後に挙げた「抗菌薬の使用」というところが要注意です。市中感染(現在この「やさしい病気の話」を読んでおられるような、普段は健康な方がかかる感染症のこと)における経口第三世代セファロスポリン系抗菌薬やキノロン系抗菌薬の使用増加が、ESBL産生菌増加の要因として指摘されているからです。

ここで問題となる抗菌薬は、いずれも外来で処方される機会の多い薬剤です。ただ、キノロン系抗菌薬でなくとも治療できるような病態に、本来は不必要なキノロン系抗菌薬が何となく処方されたりすると、腸管内でESBL産生菌が誘導されることがあり得ます。抗菌薬の適正でない使用が耐性菌を産む例です。

ごくまれに、「抗菌薬を処方して解熱すれば感染症だ」と考えている医師や、抗菌薬がいらない状態に抗菌薬の処方を希望する方がいます。不必要な抗菌薬治療は耐性菌を誘導するだけです。抗菌薬の適正使用は一部の専門家だけのものではなく、抗菌薬を処方するすべての医療者、治療を受けるすべての患者さんにもその努力が委ねられていると言えるのではないかと思う今日この頃です。

(佐々木 重喜 16.03.08.)