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やさしい病気の話

今回は『家庭でのスキンシップを大切に―甘えと間主観性に根ざした子育て』と題して伊藤 晴通院長が話題を提供します。

今回は小児科の立場から、病気の各論ではなく、人間の健康な発育にかかわる根源的なテーマについてお話します。

人間の心身の健康に最も大切なものは「自尊感情(自己肯定感)」です。そしてその形成は母親の胎内から既に始まっています。母親が周囲の愛情と安心に包まれた妊娠生活を過ごすことによって、胎児の心と体はすくすく育ち、そして生まれた後も、人間の五感とともに、母親あるいは養育者との心と心の響き合い(間主観性)を通じて、さらにのびやかに育つのです。この時に重要な役割を果たすのが、「甘え」です。

乳幼児は甘えを満たされることによって養育者との十分な信頼関係を作り、これが他者に対する基本的信頼感の基礎になります。そしてさらに成長の過程で、自分の行動が他人を喜ばすことができるということに気付くことによって、「自己有用感」を身に付け、それが健全な自尊感情へとつながっていくのです。養育者が子どもの甘えを100%満たすことはできませんが、できるだけその場で答えてあげることによって、他人に対する信頼感をより確かに築くことができます。
この即時性、つまり、すぐに答えてあげることは重要です。子どもに何かを促した時に、『ちょっと待って』とか、『あとで』と返されたことはありませんか。もしそうなら、日頃子どもたちに必要以上に『待って』と言っていないかを振り返ってみる必要があります。また、皮肉やあまのじゃくも甘えが満たされないことによって発生すると考えられています。

自尊感情には二つの要素があります。一つは人間の心の根幹を成す基本的自尊感情で、もう一つは、その上に積み重ねていく社会的自尊感情です。冒頭から述べている、人間の心と体の根源を成す部分が基本的自尊感情で、その上に、成長と共に社会で認められることによって育っていく社会的自尊感情があります。心の響きあい(間主観性)は、自尊感情の形成に非常に重要です。なぜなら、これまで困難と言われてきた基本的自尊感情の形成に、日々の共有体験がとても重要とわかってきているからです。その意味でも、乳幼児期のスキンシップや、その後の一家の団らんはとても大切です。

親子で、学校生活の話題、友人関係の話題は共有されていますか。人は他者との関わりの中で生き、成長します。他者との心の響き合いが多い人ほど、幸福度も高いようです。人間の甘えという心の根源にある一面と、それを大切にした心と心の響き合い。皆さん、子育てをもう一度見直してみませんか?

(伊藤 晴通 18.01.09)