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やさしい病気の話

今回は『がんの新しい治療薬-「免疫治療薬」について』と題して佐藤 幸美副院長が話題を提供します。

昨年、一つの抗がん剤が大きな話題となりました。「オプジーボ」という薬です。この薬は当初悪性黒色腫という比較的まれな腫瘍に対して使用が限られていたのですが、新たに肺がんに対しても使用が許可されました。一人の患者が一年間使うと約3500万円かかります。患者の数が多い肺がんにこの薬が広く使われると年間一兆円規模の医療費がこの薬だけに使われることになり、医療保険制度の存続が危惧されたのです。そのため再度価格の検討が行われてこの2月から値段が半額になりました。それでもとても高価な薬であることには変わりはありませんが。

ところで、この薬が注目されたのはその値段だけでなく、これまでの抗がん剤と全く異なる仕組みでがんをやっつけることができる新しいタイプの薬だからです。ヒトの体は自分の体の構成成分と異なるものが侵入してくると、これを排除する仕組みがあります。ウイルスや細菌の攻撃から自分を守るために備わっている「免疫」という仕組みです。

ヒトの体は数十兆個の細胞が集まってできており、一つ一つの細胞は日々分裂を繰り返して新しく生まれ変わっています。その際に私たちの体の中にがん細胞が生まれてくるのです。でもがんにならないで済んでいるのは、「免疫」の働きでがん細胞をリンパ球という細胞がやっつけてくれているからです。ところががんになった人はこうした免疫の働きが弱くなっていることが知られています。そのため免疫力を強くしてがんをやっつける治療法がいろいろと試みられてきました。現在有効性があるとして用いられているのは膀ぼう胱こうがんのBCG(結核の予防で用いるワクチン)膀胱内注入療法くらいです。

オプジーボは免疫の力を回復させることで患者によってはこれまでの抗がん剤に劣らないほどの効果が得られる方がいることが分かりました。そして、これまでの抗がん剤で多く見られていた嘔おう気き(吐き気)、倦けん怠たい感かん、脱毛、血液毒性といった副作用がとても少なかったのです。ただし全ての方に効果が出るというわけでなく、糖尿病、甲状腺疾患などの新しい副作用が出ることもあり「夢の薬」というわけではありません。オプジーボに続いてこれからいくつかの「免疫治療薬」が発売される予定です。高価ですが私たちはがんに対する新しい「武器」を手にしたことになります。

がんの治療が今、大きく変わりつつあるのです。

(佐藤 幸美 19.01.07)