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やさしい病気の話

今回は『症状がなくなってから徐々に復帰を−スポーツと脳しんとう』と題して佐々木 順孝院長が話題を提供します。

秋から冬といろいろなスポーツで意気込む方も多い中、水を差すようで申し訳ありませんが、今回はスポーツにおける脳しんとうについて、日本脳神経外傷学会の中間提言(神経外傷36: 119-128、2014)に準じて最近の考え方をお示ししたいと思います。

スポーツ頭部外傷による脳しんとうは、意識消失や記憶障害(健忘)だけでなく、頭痛や気分不快などの幅広い症状を含みます。具体的には、頭部を打撲した後に、受傷前の記憶がない、逆に受傷後の記憶がない、場所や時間が分からない、反応が鈍い(霧の中にいるような感じ)などの症状があります。脳しんとうによる症状は、通常、短時間で消失しますが、頭痛、めまい感、耳鳴り、複視、睡眠障害などが数週間持続する場合もあります。特に、小児や若年者では長く続くので注意が必要といわれています。

軽度の頭部外傷を受けた方が、数日から数週間後に2回目の頭部外傷を受け、脳腫脹(脳の腫れ)を来し具合が悪くなることをセカンドインパクト症候群といいます。セカンドインパクト症候群の病態についてはまだ議論のあるところではありますが、気をつけるべきものと思われます。また、頭部外傷を何度も繰り返すことで、ある程度期間をおいて、高次脳機能障害(脳の働きが悪くなること)を来す場合があり、慢性外傷性脳症(chronic traumatic encephalopathy) と呼ばれています。ボクシングの領域ではパンチドランカー(古いですが、「あしたのジョー」の主人公、矢吹丈もなりました)と言われています。

以上から、脳しんとうが疑われる場合や、頭部打撲後、頭痛が数日持続する場合は、頭蓋内に出血している可能性があり、可能な限り、画像診断が望ましいとされています。

脳しんとうが明らかな場合、当日は競技に復帰してはいけません。脳しんとうを一度起こすと、2回目を起こすリスクが高まり、回復も遅れることがわかっています。競技復帰は、症状が完全になくなってから、徐々に運動量を増やし、徐々に復帰させるべきと考えられています。スポーツに伴うけがや危険は、気をつけていてもある程度避けられませんが、スポーツを安全に楽しむために、脳しんとうについて、今回述べたようなことに気をつけていただきたいと思います。

(佐々木 順孝 21.01.04)