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やさしい病気の話

今回は『「タヴィ」という治療法をご存知ですか−大動脈弁狭窄症(だいどうみゃくべんきょうさくしょう)とその治療法について』と題して池田芳信院長が話題を提供します。

心臓には四つの部屋(左室、左心房、右室、右心房)がありますが、そのうち、最も重要な左室の出口についている弁膜が大動脈弁です。左室から大動脈へ血流を送り出す際に開き、大動脈に出た血流が左室に逆流しないよう閉じるという働きをもっています。大動脈弁狭窄とはこの弁膜がさまざまな原因により狭くなる病気です。原因としては①先天性二尖弁(にせんべん)(通常は3枚弁尖の大動脈弁が生まれつき2枚弁尖からなる病態)36%、②リウマチ性(溶連菌感染によるリウマチ熱由来)9%、③硬化性(動脈硬化の進展による大動脈弁石灰化)51%とされています。このうち、リウマチ性は小児医療の進歩により溶連菌感染が抗生剤の適正使用で早期に治療されるようになったため、ほとんど見られなくなりました。高齢化社会の中で最も問題になるのは③の硬化性大動脈弁狭窄です。

大動脈弁の正常弁口面積は3~5㎠程度ですが、1・0~0・75㎠以下になると重症といわれます。しかも、大動脈弁狭窄には加齢に伴い進行性に狭窄が悪化して行くというやっかいな側面があります。診断は定型的な心雑音が出ますので聴診器をあてることでできますが、確定には心臓超音波検査が必要です。症状は初期無症状、失神、狭心症、心不全が主症状で、症状が出てしまったときの予後は極めて悪く、外科的治療をしなければ狭心症出現後は余命5年、失神で余命3年、心不全で余命2年といわれています。外科的治療としては開胸弁置換術(大動脈弁を人工弁で置き換える手術)が行われてきましたが、症状が出現する年齢が70代後半から80代と高齢であることから開胸心臓手術を行うこと自体の危険性があり手術できない場合も多々ありました。

近年、この領域の進歩として開胸しないでカテーテルを用いた大動脈弁置換術(TAVI : Trans Aortic ValveImplantation)ができるようになりました。一般に「タヴィ」と呼んでいる治療法です。この治療法のおかげで全身状態が悪く開胸手術に耐えられない方も治療可能となりましたが、この治療ができる施設は限られていて、残念ながら秋田県が日本で唯一この治療ができない県となっています。ただ、岩手医科大学附属病院ではこの治療ができますので、秋田新幹線「こまち」で盛岡まで約1時間の当地域は秋田県内では最もこの治療を受けやすい地域ともいえます。興味のある方は主治医の先生とご相談ください。

(池田 芳信 21.11.01)